朝比奈みくるの赤面


 日が沈むのが少しだけ延びたけど相変わらずの寒さを誇り、未だに白い粉を天から幻想的に撒き散らすことの多い季節のことだ。
 年も明けて学校も始まり学校という名の日常が再び体に染み渡っていく事を実感しながら万里の長城のような長い上り坂を歩いていると谷口が見えた。


「よう谷口」
「なんだキョンか」
 なんだはないだろう。せっかく俺があいさつしてやったんだ。そんな落ちぶれた顔をしてないでもっとうれしそうにしたらどうなんだ?
「お前はなんでそんなに元気なんだよ。あ〜また朝倉でも転校してきてくれないかな」
「朝倉、ね。俺は勘弁だ」
「ホントにキョンは変わった人が好きだよね」
 …国木田よ。いきなり会話に加わらないで一言くらい挨拶したらどうなんだ?
「キョンが気付かなかっただけだよ。それに挨拶してないのはどっちかっていうとキョンだよ。僕は谷口と一緒に学校へ来たんだもん」
 そうか、そいつはすまんかった。
「で、朝倉が嫌いと言い張るお前は誰ならいいんだ?」
「キョンは涼宮さんに決まってるじゃん」
 お前たちは口を開けばハルヒの名前がでてくるな。いいか?俺は朝比奈さんこそ天使だと思ってる。あの人こそ女性の代表格だと。俺は朝比奈さんがいいんだ…
「あっ朝比奈さんと鶴屋さん!野球のときの谷口です!おはようございます!!」

 えっ? 谷口に続いておはようございますと言う国木田の後ろにロングヘアーが特徴的な笑顔の眩しい鶴屋さんと真っ赤な顔の朝比奈さんが、…真っ赤な?
「もしかして…」
「もしかしなくても聞いてたよっ!キョンくん朝っぱらから告白かい?みくるはウブだからあんまりオイタしちゃだめにょろ」
 でもキョンくんならみくるもよろこぶかもなんておっしゃってる鶴屋さんはどことなく楽しそうに見える。あっ、朝比奈さんがフリーズしてる…。
「ご、ごゆっくりー」
 そう言って走り去っていく谷口に連れ去られる国木田を見ながら教室へ行くのが怖くなったね。主に俺の後ろの席のヤツに知られる事が。
「ごゆっくりにょろ〜」
 鶴屋さん、冗談がきついですよ。あなたがいなかったら誰が朝比奈さんにかかったフリーズの魔法を解くんですか?
「冗談っさ!ちゃんとみくるは責任もって教室へ連れて行くにょろ」
 んじゃーねーといって朝比奈さんを引っ張っていく鶴屋さんの長い髪が揺れる。朝比奈さんの胸も揺れる。ついでに俺の心も揺れた。






「よう」
「聞いたわよ」
 うっやっぱりか。
「朝っぱらからみくるちゃんに愛の告白したらしいじゃない」
「誤解だ」
「あんたみくるちゃんのこと好きだったのね」
 誤解だといっとるだろうに。あれは売り言葉買い言葉ってやつだ。
「へーそれで告白したってのね」
 ハルヒはあきらかに不機嫌そうなオーラを身にまとい放課後に部室へ向かうのがためらわれるほどの視線を俺に浴びせている。
「じゃあお前に問う。古泉と俺を選ぶなら、もちろん俺だよな?」
「ばっかじゃないの?あんたなんて選ぶわけないでしょ!あんたなんか…」
 うん、ハッキリ否定されると悲しいね。例え素直じゃないハルヒの買い言葉でも。
「もういい、そんな感じで朝比奈さんの名前がでてきたんだ。そこにたまたま朝比奈さんがとおりかかったと」
「うっうるさいわね。だいたいあんたがみくるちゃんのこと好きだって言ってもみくるちゃんはあんたなんか好きじゃないわよ!」
 そんなことわかっている。なんてったって北校のアイドルだ。俺は近くで眺めていられればそれでいいのさ。
「で、誤解は解けたって事でいいんだな?」
 と、そこで岡部が入ってきてホームルームが始まったんだがハルヒは理解はしても納得はしてくれていないらしい。
 授業中は不気味なほど静かで俺が睡眠学習するのにはもってこいだったが、それが逆に放課後の不穏を象徴してそうで睡眠学習の内容は悪夢だった。



 昼休みになるとハルヒは飛び跳ねる荒馬のようにさっさと学食へ走っていき、俺から谷口と国木田への詰問タイムになった。
「俺に言うことは?」
「お幸せに?」
 違う!そのセリフには悪意が感じられる。どっかの転校してったヒューマノイドなんたらのようにな。
「なんだキョンはうらやましいとでも言ってほしいのか?」
 と谷口。続いての国木田のセリフで俺は弁当をこぼした。
「たしかにうらやましいね。噂の朝比奈さんのお出迎えだよ」
 ちらりと後ろをみると朝からずっとなんじゃないかというくらいの真っ赤な顔をした朝比奈さんがオドオドしながらこっちをみている。
「行ってこいキョン」
 そうするよ。じゃあ落とした弁当の片付けは任せた。食えそうな部分あったら食っていいぞ。許可する。



 朝比奈さんに連れて行かれたのは完全なるSOS団の聖域ともいえる文芸部室で、幸か不幸か長門はいなかった。つまり二人きり。 
「あれ、誰もいないのになんで鍵あいてたんでしょうね」
「ふぇっわわわわかりません!」
 明らかにキョロキョロしてる朝比奈さんなんだが、そんな姿もかわいいな。大人になってもこの美しさが持続することが決まってるんだ、うらやましい。
「ところで、」
 と言い、小声で「ハルヒですか?」と聞いてみた。
「っふぇ??ななななんのことですかぁ?」
 バレバレですよ。長門がいない時点で多少は疑いますし、誰もいない部室の鍵が開いてたり。まあ朝比奈さんの挙動でわかったんですけど。
 でもそんなことはあなたの美しさに目がいってしまって気付かなかったことにしましょう。
「いえ、なんでもないです。でどうしたんです?」
「あっあの〜朝の事なんですけど」 ガタッ
 今、確実にロッカーから音がした。ハルヒはきっとそこで会話を聞いてるんだろう。そうだ!
「その前に、最近ロッカーが壊れてるんですよね。ちょっと中のものがでてこないように補強しちゃいますね」
 朝比奈さんが口をパクパクさせてるのに対しては見てみぬフリをしながらビニルテープとガムテープでロッカーをぐるぐるまいておく。
 これでハルヒはでてこれないだろう。ついでに前に映画とったカメラはっと。



「朝比奈さん!」
「ひゃい!!」
 恥ずかしいから一気に言ってやろう。
「話は戻りますけど、朝言ったことは全部本当なんです!俺は朝比奈さんこそ世界で一番美しい女性だと思ってます」
「ふぇ…?」
「鶴屋さんも長門もついでにハルヒのきれいだと思います。でも朝比奈さんが一番きれいだと俺は思ってます」


    バゴン!!!!
「ちょっとキョン!どういうことよ!!やっぱりみくるちゃんが…」




 まあそこにはお決まりのニヤニヤした顔で俺がルーズリーフいっぱいに『ドッキリ』なんて書いてハルヒに向けていて、ハルヒがきれてってお決まりのパターンにおちいるわけなんだが。
「ちゃんとカメラに収めといたから安心してくれ」
「バカキョーン!!!」




 翌朝、右の頬を腫らせた俺が登校しているとハルヒにあった。
「珍しいじゃないこんな時間に学校来るなんて」
 だれかのせいで頬が痛くて眠れなかったんだ。
「自業自得でしょ?」
 それは違うと思う。


「あれれーキョンくんじゃないかい?」
 とこういうタイミングで出てくる朝から元気なお方と言えば鶴屋さんしかいないわけで。
「あkつ鶴屋さんおはようございます」
「ハルにゃんもいっしょだね!朝からいいことにょろ!」
 今日は朝比奈さんと一緒じゃないんですか?
「みくるは今日はお寝坊さんさっ。昨日うれしいことがあって寝れなかったらしいよ!」

「なんかキョンくんに…」
 あっ言わないでいいです。特に今は。ハルヒが近くにいるときは。



「バカキョーン!!!」


「痛えよ!本気でなぐんな!」













朝比奈さんネタは書きづらいです。結局朝比奈さんは赤面しただけで対して何もやっていないという…