長門有希の悪戯
そう、それは俺が少しだけ遅れてしまった日の事だ。
今でもわからない。なぜ長門があんなことをしたのか。
――コンコン。
俺はトイレに言ってから団室へ向かったためいつもよりほんの2〜3分遅く着いた。
少し急ぎながらも朝比奈さんの生着替えを見るわけには行かずちゃんとノックはする。
「どうぞ!」
げっハルヒかよ。一日の楽しみのうち80%は天使に会えるこの瞬間だとつね日ごろから考えてる俺は天使の変わりに堕天使に出会うことが確定した段階で落胆をし、ノックして返事が返ってきた以上部屋に入らないのは不審者のすることなのは自明の理なわけでそんな不審者になりたくもない俺は堕天使の前で天使がくるのを待つ決意をして部屋に入るしかない。
ガチャ
「えっえっ??」
「えっ?」
これはどういうことだ? 夢を見ているのか?
目の前には顔を真っ赤にして「えっえっ」と繰り返している朝比奈さん。その奥にはイタズラを成功させたひねくれたガキの笑顔。
「な…どういう事だ?」
「キョン! みくるちゃんのあられもない裸体を見たわね? 罰ゲームよ!」
何をしてるんだこいつは。というか何を言ってるんだ?
っとその前に朝比奈さんが震えてらっしゃる。急いで退室せねば。
丁重に朝比奈さんに非礼を詫びたあとで俺はハルヒに聞いた。
「なぜ朝比奈さんが着替えてるのに返事をしたんだ?」
「あら? ノックに対する返事はしたけど入っていいとは言ってないわよ?」
屁理屈だ。
「と、いうわけで…」
ああやっぱり今日はいい日にはならないな。こいつの笑顔が俺の細胞に語りかける。
「罰ゲームね!」
やっぱりな。やれやれだ。
しかしよくよく考えたら朝比奈さんの下着姿をみることのできた俺は世界一幸せなんじゃないかと俺が思っていると、ハルヒはとんでもない悪戯を思いついたようで不気味にニヤリと微笑み俺を一瞥する。
この部屋にはもう回復した朝比奈さんのお茶をいれる音と何時の間にかいた長門の本をめくる音しかしない。無音が痛い。
「…決めたわ」
何をだ?
「罰ゲームに決まってるじゃない!」
じゃあ、何にだ?
「ふっふ〜ん」
凶悪な笑顔を浮かべるハルヒに朝比奈さんが小リスのように震えている。ああ、朝比奈さんが震えるような罰ゲームが待ってるのか。
「聞きなさい!」
もったいぶるな。長門も興味あるのか本から顔を上げてるぞ。
「このガムテープで一日キョンをイスに縛り付けるわ! みくるちゃん、キョンに見られた仕返ししてもいいわよ!」
なっなんだって? 有希手伝いなさいと言ったハルヒと長門が近づいてくる。
これは逃げたほうがいいのか? いや、逃げたら恐ろしい罰ゲームが待ってる気がする。
しばられて身動きが取れなくなっても朝比奈さんはきっと何もしないだろう。なんせマイエンジェルだ。
さて、今俺はまったく身動きがとれない。意外ときつい。縛られてる部分が痛い。
「なあハルヒ、右手だけでもはずしてくれないか? お茶が飲めないんだが」
「あんたはお茶飲んでる場合じゃないでしょ! まずは反省することから始めなさい」
やれやれ。俺は両手を後ろでガムテープで固定され足もパイプイスの足に固定されている。まったく身動きが取れない。
なあ、いつまで俺はこの格好をしてればいいんだ?
「最後までよ!
そうだ! みくるちゃ〜ん、身動き取れないキョンの写真撮ってみたいと思わない?」
「ふぇ? そうですね〜少し撮ってみたいかも」
「決まりね! じゃあ写真部行ってカメラもらってくるから、有希はキョンが逃げないように見張ってること! 少しくらいならイタズラしてもいいわよ!」
「了解した」
了承しなくていい!
「ちょっと待て、お前またコンピ研からパソコン奪ったように朝比奈さんを…」
って行くのはえぇよ! 人の話を最後まで聞きなさいって先生に習わなかったのか?
はぁ。本日何度目のため息だろう。
「なあ長門、ほどいて「ダメ」」
「涼宮ハルヒに逃げないように見張れと言われた。」
やっぱりか。しかし長門よ、ハルヒに言われたからというよりは自ら楽しんでいるみたいだぞ?
ふと長門を見ると…いない。
「ぬおっ!」
誰だ俺のわきの下に手を突っ込んでるのは、と言おうとして長門しかいないこの部屋では必然的に犯人が長門になるのは名探偵じゃなくてもわかるわけで、
「って長門! やめなさいくすぐったい」
「やだ」
「やだじゃない! わきの下はダメなんだ! 禁断の花園なんだ! 頼む!」
頼む、そんな捨てられた子犬の様な目で見ないでくれ。わきの下だけはダメなんだ。
「涼宮ハルヒに多少のイタズラは容認されている」
イタズラしろって言われたわけじゃないだろ? してもいいって事はしなくてもいいって事で別にムリにする必要はないんだ。
俺なんて朝比奈さんにイタズラしても言いと大人バージョンの…
「わたしという個体もあなたにいたずらしたいと」
わかった。もう何も言わん。好きにしろ。
「好きにする」
あの〜長門さん? どうして俺の服を脱がせているのでしょう?
「……」
そんな困った顔プラス無言で返されても困ってるのは俺なんだがな。
カプっ
なぜ噛む?
「あなたに強力な利尿作用のあるナノマシンを投入した。5分32秒後にあなたはガマンできなくなる」
どういうことだ? うっ無性にトイレ行きたくなってきた。言っておくが小さいほうだぞ?
「わたしの家まで来て夕飯を作ってほしい」
「ちょっと待て、何か展開が急すぎないか?」
「急すぎない。これよりあなたにキスマークを添付する」
長門の顔が俺の首筋に近づいてくる。長門っていいにおいがするなぁなんて考えてたら強烈に皮膚が吸い付かれた。
キスマークってこうやってできるんだなんて1人で感心してしまった。
「ちょっと待て!俺には何が何だかわからんのだが?」
「…」
困った顔しないでほどいてくれ! 俺はもう漏れそうなんだ。
「頼む…」
このままではキスマークつけたまま壮大なお漏らしをして明日から学校へ行けなくなってしまう。
「限界だ…わかった。そのかわり、今度、な」
「了解した」
そのあと長門が俺の腕を噛んで中和するナノマシンを注入したため漏らす事はなかったが、帰ってきたハルヒにぐったりした俺とはだけたYシャツと首筋に着いたキスマークを見られてからは更に大変だったと付与しておこう。
長門は何も言わないし、俺は身動き取れないままだし朝比奈さんは顔を真っ赤にして俯いてるし、弁解するのが大変だった。
俺は何もしてないというか、何もできないはずなのにな。
「今のは、イタズラ」
帰りにそう言って薄く微笑んだ長門を見たらなんだか全てが許せてきた。
「でも、夕飯は」
そう言って週末に長門の家で料理することになった。楽しみにしてたらしい長門が軽く暴走するのは次の機会で語ろうと思う。